【釈正輪メルマガ1月8日号】日々是好日

【聞く耳を持たない私たち】

小寒の候。
正月の初子(ね)の日には、まだ冬枯れの野に出て若葉を摘み、小松を引いて長寿を願います。これが平安女性たちの新年恒例のお楽しみだったとか。旧暦のお正月ですから、新暦でいえば一月末から二月初旬頃です。

冬の間、屋内に閉じこもりがちだった姫君たちは、この日を待ち兼ねて、新春の空気にふれ、野遊びに興じたもので、『源氏物語「初音」の巻や「若葉上」の巻』などにも描かれています。これが子の日の行事。この日に摘んだ芹(せり)や薺(なずな)などの七種の若葉で、七草粥も作られたことでしょう。

合掌

嵯峨へ行き 御室へ戻り 若葉かな

正岡子規

今年も多くの檀信徒さんが年始の挨拶に来られました。毎年必ず年頭の挨拶に来られる律儀な年配の檀家ご夫妻や、久しぶりに顔を見せてくた若い信者夫婦等、さまざまな檀信徒さんが来られました。日頃は他僧に寺院を任せ、寺を空けている住職の私ですが、有り難いことに、多くの方々が挨拶に来られます。

さてそのような中、凡そ二十年ぶりに私を訪ねて来た中年夫妻がいました。男性は詐欺犯罪で三年間服役をしていたと言います。その昔、私にも幾度となく怪しい話を持ちかけては、私の一喝でたじろぎ、懇々と説教をしたのですが、その甲斐もなく、そのような状況になったと言います。

またその男性の妻も妻で、勝手な言い訳ばかりをします。今回も挨拶とは名ばかりで、仕事先の紹介を貰いにきたのです。実に人間とは都合のいいいきものです。世の中には話を聞くだけでは理解できない、受け入れられないことが多くあります。そんな時は、体験をもって確かめるしか方法はありません。お釈迦さまは実に上手く方便をなされます。このお話は以前にも紹介した実話です。

キサーゴータミーという女性が男の子を生みましたが、突然の病で急死してしまいました。彼女は狂わんばかりに、愛児の亡骸を抱き締め、この子を生き返らせる人はないかと村中を尋ね回りました。会う人見る人その哀れさに涙を誘うも、死者を生き返らせる人などあろうはずがありません。

だが今の彼女には、何を言っても聞く耳を持たないと思ったある人が、「舎衞城にましますお釈迦さまに聞かれるがよい」と諭しました。早速、ゴータミーはお釈迦さまを訪ね、泣く泣く事情を訴えて、わが子の蘇生を懇願したのです。哀れむべきこの母親に、お釈迦さまは優しく、こう告げられました。

「お前の気持ちはよく分かる。愛しい子を生き返らせたいのなら、私の言う通りにすればよい。これから町へ行き、今まで死人の出たことのない家から、芥子の実を一つかみ貰ってくるのだ。直ぐにでも子供を生き返らせてあげよう」お釈迦さまの真意を知る由もないキサーゴータミーは、それを聞くなり一目散に町へ向かって走って行きました。

しかし、どこの家を訪ねても、「昨年父が死んだ」「夫が今年亡くなった」「先日子供と死別した」という家ばかり。だが彼女はなおも、死人の出ない家を求めて駆けずり回ったのでした。どこの家にも芥子の実はあったが、死人を出さない家はどこにもなかった。

やがて日が暮れ、夕闇が町を包む頃、心身ともに疲れ果て、歩く力も尽きた彼女は、トボトボとお釈迦さまの元に向かって歩いていました。「ゴータミーよ。芥子の実は得られたかな」「世尊。死人のない家はどこにもありませんでした。私の子供が死んだことがようやく知らされました」「そうだよゴータミー。人は皆いつかは死ぬのだ。これは明らかなことだ。その子は死ななければならなかった宿業があったのだ」「本当に馬鹿でした。こうまでしてくださらないと、分からない私でございました。こんな愚かな私でも、救われる道をお聞かせください」その後ゴータミーは深く懺悔し仏法に帰依し、尼僧になったといわれています。

相手の心に応じたこのようなお釈迦さまの教導を、誰が否定できるでしょうか。話せば済むことを、何故、無駄な苦労をさせられたのかと、訝る人もあるかも知れませんが、実行させなければ分からぬ重い業を持った人間もいます。言うは簡単なことですが、ときには黙し、ときには突き放すことも慈悲なのです。説法説教で導こうとする私は、未だ師家としての修行が足りない愚僧だと、つくづく思った新年でした。

釈 正輪 拜

開催時の様子を動画で紹介

2019年1月16日「価値観の多様性」

2019年1月16日「改めて思う仏教の大切さ」

2019年1月16日「人というのは何者なのか?」

2018年8月9日「私という人間を認めてくださる方に出会うか否か」

2018年8月9日「お坊さんの役割」

2018年8月9日「歴史にはいろんな考え方がある」

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