Loading

釈正輪回顧録 5.千日回峰行1

釈正輪回顧録 5.千日回峰行1

千日を行う前に、百日の前行、四十九日の加行を修し、武藤宮司から初めて入峰を許された。
回峰行は四月一日から始めた。
毎朝午前一時半に起床し、洗面を済ませると、そば粉と荒塩を混ぜて捏ねた団子と、こうせん粉に少しの砂糖を混ぜた団子を作り、袋に入れて出発する。
山は漆黒の闇に包まれていた。山に入るためには禊は不可欠である。

私は着ていた作務衣を脱いで岩場の上に置き、川の中へ入った。
四月の高賀渓谷には山頂からの雪解け水が流れ込んでいる。水の冷たさが身体を打つ。
私は一心に真言を誦(じゅ)した。
水からあがると私は先ほど脱いだ作務衣をリュックサックにしまい、持ってきた荷物の中から鈴懸(すずかけ)を取り出した。
それから掛衣(かけごろも)を首から掛け、貝ノ緒(かいのお)を巻き、尻には引敷(ひつしき)を当てる。白足袋を足に着け、手甲脚袢(てっこうきゃはん)を手足に付け、頭巾(ときん)を額にあてた。
錫杖(しゃくじょう)を手に持ち、法螺貝(ほらがい)をくびからつるし、短刀を腰に納めた。
山伏の修験装束である。禊を終え、蓮華峯寺観音堂で読経を終えると午前二時を回る。
高賀神社で祝詞をあげ終わるのが午前三時半である。

高賀神社の前の林道をしばらく行くと登山口が現れる。登山道は厳しい岩場である。
私は暗闇の中を一歩一歩、足で岩をとらえて登り始めた。

PAGE TOP